やすら樹 NO.79

医療と内観 ―第13回―

  ACと内観

 女性ゴルファーのローラー・ボーをご存じでしょうか。ゴルフ好きや中年の方は、彼女の微笑みとその姿態が脳裏に焼き付いているかもしれません。彼女が自叙伝「私は仮面の妖精だった」(日本語訳)を出版した時、みんなをびっくりさせたと同時に、アルコール依存症(以下、ア症)は日常的な病気という認識を与えてくれた。本の中で、今回お話ししたいAC(アダルト・チルドレン)であることを彼女は赤裸々に語っています。


 ACについては、「紫陽花の色」という話の中で触れたことがあります。覚えておられるでしょうか。ACとは、幼いころにア症やアルコール乱用の親を持つ家庭の中で育って大人になった人(人々)の中に、自分の感情を素直に表現できなかったり、他人の評価を気にして常にいい子であろうとし、その結果として生きづらさを感じたりします。最近、この用語はア症の家庭に限定されず、不幸な家庭「機能不全家族」に育って大きくなった大人に拡大して使用されています。


 ACを語る時、メール内観を行ったA子さんを思い出します。彼女の父には酔って母や姉に暴力を振るい、小さいながら両親の喧嘩の仲裁に入る日々を過ごしている。その上、彼女は両親に養育されたのですが、戸籍の上で母子家庭という複雑な環境でした。高校の時に両親は離婚に至り、その後に4年生大学に入学し、家の借金や学資、生活費を稼ぐためホステスのアルバイトを始めました。母の苦労に報おうと一生懸命に働き、母との同居を果たし毎月小遣いを渡すなどして、「精神的に母を支えてきた」という思いを持っていました。ところが、1年間休学して海外でボランティア活動をして帰宅したところ、母に彼氏ができており「私はこんなにおかあさんの事を思っているのに、どうして・・・?」と感じ、母を幸せにする「夢」を失いました。その後、母に言いたい事を全て飲みこみ我慢。不眠が出現し、眠剤代わりに飲酒。アルコールは「忘却水」のように飲み酒浸り。睡眠薬の乱用も生じて、A子は私が開設していたメール相談を訪れました。A子には見捨てられ体験が過量飲酒や睡眠剤乱用の契機であった。それは、自分の感情を押し殺し、母思いのいい子の役割を一生懸命に果たしているが、自分を見失っていたとも言えた。そこで、メール内観を試みることになった。 


 メール内観中に転換点がないように思われたが、終了後に「視点の転換」が訪れ、母からの愛の再確認とともに、故郷を離れ新しい地で就職という旅立ちを迎えた。彼女の言葉を借りれば、「内観してから知らず知らずの内に内観をする自分に気がつきました。私はずっと迷惑をかけないように生きてきたつもりで----、けど、迷惑をかけたことは、やはり沢山ありました」。「母との関係も最近修復されています。母を傷つけないように、けれども私の考えもちゃんと言えるようになりました」。「母を幸福にさせようと考えていたが、母の幸福の顔をみて一番幸せであったのは私だと気がついたとき、何か楽になってこれから生きて行けそうだと思った」などと述べています。


 この例のようにACの方の内観がいつもうまくいくとは限りません。B子さんの場合は、母に対する内観3項目を調べると、嫌な体験が浮かんで来て理性的に対処できず、いわゆる外観になってしまうのです。小さい頃の心的外傷体験が強いほどその傾向があるように思います。


 内観がスムーズに行えた方は、私を含めて育ててくれた両親に感謝が必要だとつくづく思うのです。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto