やすら樹 NO.82

医療と内観 ―第16回―

  慢性の病気とエンパワーメン卜

 私の住む富山県で、去る8月に日本家族研究・家族療法学会主催の地域ワークショップが開催された。この集まりは日本内観学会が内観普及の為に各地でワークショップを開催しているのと同じ趣旨で行われている。参加して改めて私は、慢性の病気への日頃のアプローチの仕方について、自分の考えや実践が正しかったと確信し、意を強くした次第です。


 唐突な出だしで読者の方は戸惑った事でしょう。今回は医療らしい話にします。病気には、急性疾患と慢性疾患がある。急性疾患というのは、病気の名前の頭に急性、例えば急性肺炎とか急性気管支炎、急性肝炎で代表されるような病気で、急激に始まって、はやく経過します。反対に慢性疾患は徐々に発病し、治癒にも長期間を要する病気で、結核や糖尿病などの体の病気や、アルコ-ル依存症や摂食障害など心の病気がある。


 急性疾患に対しては、医者がイニシャティブを握り病気の人に対して治療を行う。その際、最近よく知られるインフォームドコンセント(説明と同意)を患者や家族に対して行うのが一般的である。しかし、生と死が交錯する緊急救命室、ER(エマージェンシー・ルーム)に担ぎ込まれる人達に、意識のない人が多く刻一刻を争うために医者主導で治療が行われる事が多い。そこには患者や家族の意志より、医者の父親的温情主義が優先される。生命第一優先、病気を治すことを第一義とした、医師や医療従事者が上層に位置し、病気を持った患者が下層に位置するヒエラルキー構造を示すパターナリズム・モデルが存在する。


 ところが、どの病気も治る訳ではない。急性期を過ぎても治らないで慢性期に移行する場合もあり、糖尿病やアルコ-ル依存症のように始めから慢性期の病気もある。このような病気に対して伝統的な医者主導のやり方ではうまくいかない。いくら医者が、「私の言うことを聞いて薬を飲みなさい、体重を減らす食事療法をしなさい」と言っても、患者や家族が病気を良く理解し主体性を持った病気への取り組みがなければうまく機能しない。職場も病気の予防に力を入れても、成人病に代表される疾患を持つ人を雇用せざる得ず、患者の病気を理解し長期にわたって通院をさせたり、仕事の配置を考慮する必要がある。


 そこで登場したのが、慢性疾患に対するエンパワーメント・モデルです。エンパワーメントとは、「力を増幅させる」という意味があり、このモデルは、病気を円の中心に置いて、周囲に患者や家族、医師、職場、地域が配置され、ヒエラルキーの構造でなく同等の位置で病気に立ち向かう姿があり、これらが相互に病気に対してエンパワーメントさせる事になる。


 例えば、アルコ-ル依存症という病気に対して、アルコ-ル依存症の本人はもちろんの事、家族も家族病のメンバーとして病気に対峙し、職場も病気に立ち向かうことになり、アルコ-ル依存症は治らないが回復するという事で患者は断酒継続と伴に生き方を変え、自立と社会参加が行われる事になる。


 最後に内観との関係を述べると、内観は病気(特に慢性疾患)に対して二方面よりエンパワーメントさせる力を持っている。一つは、病気を病んだ患者には個人精神療法的に、一方は家族内観を通して家族療法的側面より。慢性疾患が多い現代において、このような柔軟性を持った内観療法を私達が手にしていることに感謝したいと思います。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto