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やすら樹 NO.86

医療と内観 ―第20回―

     システムズ・アプローチ

 「システムズ・アプローチ」という聞き慣れない言葉に戸惑いを感じられるでしょうが、少し我慢をして読んでいただだくと新しい考え方に出会えると思います。


 不登校のA君がいて、学校や家庭が困った場合を想定してみます。普通は次のように考えて対応します。不登校の原因は、個人や学校環境、育て方の問題へと単純・還元化して因果関係を理解し、不登校への対処方法を行うのが一般的です。しかし、原因はそんなに単純なものではなく複雑であるのが普通です。例えば、母親の不適切な関わり方と思えたのは、不登校による母親の混乱状態の結果という事もあるし、家庭を顧みないで妻をサポートしない父親の役割欠如による事もあり、因果関係は直線的というより円環的で、原因が結果、結果が原因という場合が多い。


 このような複雑な問題を合理的に解決する方法論として登場したのが「システムズ・アプローチ」です。この方法論は、ベルタランフィが提唱した一般システム理論に基づいています。ここで言われるシステムは、我々が理解している意味と少し違い、広い意味で使われ、時計じかけやサーモスタットのようなハード的なものから、細胞、植物、動物、人間、国家、はては宇宙までがシステムとされ、一般システム理論の対象となります。この理論の全部を紙面の関係で示すことはできないが、幾つかの公式がある。一端を示すと、どのシステムも何もしないと混沌とした非分化な状態となり解体してしまう。家族に当てはめると、家族は外から情報や食料・衣料品などを入れ、食品は加工され食事と提供される。一方、それに対してお金を支払うなど物質エネルギーを交換しあうという開放システムがあって家族が成立する。ところが、閉鎖システムで、家にお金を入れられないと餓死するし、アルコ-ル依存症で入院になったが子供が心配するからと事実を伝えないなど情報を操作する家族において病気が良くならないで家族崩壊にいたるなどは珍しくない。


 さて、不登校という個人の精神病理または行動障害は、システム論的に応用した場合、A君を取り巻く家族や学校、地域というシステムの歪みの反映として捕らえることができる。その結果、夫婦間のコミュニケーション問題や、父親がアルコ-ル依存症でA君に母親が夫のような過大な役割を担わせている点や、A君の不登校は家族が崩壊寸前を防ぎ家族の再結集に役割を果たしている事が見えてくるかもしれない。つまり「木を見て森を見る」ことがシステムズ・アプローチ-の特徴で、A君の家族システムの構造的ないし機能的な不均衡を見つけ、バランスの崩れを修正する事により解決をしていく。さらにこの方法の長所は、システムの歪みと捕らえる事により悪者を作る必要がなく、家族の協力が得やすい点にある。


 最後に、内観とシステムズ・アプローチの関係について触れたい。例えば、A君に内観をしてほしいと家族は希望するが拒否にあっている場合、不登校は家族システムの歪みと考えて対処を考える。A君でなく家族の一員が家族内観を行うという対処で、実行した結果、家族システムが健全な方向に向かい、うまく行けばA君も内観を行うかもしれないし、内観をしなくても学校に行き始めるかもしれない。例と同じような悩みを持っている読者の方がおられれば、システムズ・アプローチに基づいて家族内観を実行されると良いかもしれないですね。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto

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