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やすら樹 NO.83

医療と内観 ―第17回―

   一期一会の心

 トム・ハンクスが主演しアカデミー賞6部門を受賞した「フォレスト・ガンプ 一期一会」を視聴されたことがありますか。心身のハンディキャップを負ったガンプが、数奇な運命をたどる話しで、走ることに目覚め、フットボール選手で活躍してケネディ大統領から激励され、軍人としてベナム戦争に出征してその功績で大統領から栄誉勲章を送られ、卓球選手となり世界選手権大会に出場、そしてエビ採り船の船長になり大成功をおさめたアメリカン・ヒーローの話である。ここで疑問なのは、邦題の副題として一期一会が選ばれたのでしょうか。


 一期一会(いちごいちえ)を調べると、二つの説明があり、一つは茶会に臨む際には、その機会は一生に一度のものと心得て、主客ともに互いに誠意を尽くせ、の意で一生に一度だけ出る茶の湯の会。もう一つは、一生に一度だけの機会で、一般には後者の意味がよく使われます。この語句は、井伊直弼による茶道の奥義を著した「茶湯一會集」の巻頭に出てくる言葉で、後生に茶道から離れて人生の名訓となった訳ですが、単に一生に一度だけの機会という意味だけでなく、その裏に誠心を傾けて物事や人生への取り組みが隠れているのではと思うのです。その意味では、ガンプが素直な心でその時、その時の機会を誠心をこめて生き抜いた生き様に感動して副題を加えられたのではと思います。


 さて、北陸で定期的に開催される通称「さわやか会」の席で、北陸内観研修所の長島正博先生より、森川りうについて聞く機会がありました。森川りうは、内観の創始者、吉本伊信の妻のお母様で、内観の求道者でもありました。吉本伊信をして、もっとも内観が深い人は森川りうとも述べています。このりうが内観と出会い、まさに一期一会の心で生き抜いた人ではと思ったのです。りうの没後に、雑記帳に書き残された「道のうた」というのがあります。一文を紹介しますと、

 これから通る
 今日の道 新しい道
 通りなおしのできぬ道

 苦しいことから逃げていると
 楽しいことからも遠ざかる
 (中略)
 ああして
 こうして
 計画満点
 実行せぬは玉に傷
 (中略)
 豊かだから与えるのではない
 与えるから豊かになれる

 笑い顔でお早う
 感謝でお休み
 希望と感謝と反省の日を重ねつつ
 我が生涯を意義深く

 紙面の都合で全文を紹介できないのが残念ですが、平易ながら内観の神髄が書かれています。ただ、私のような人間には、アクションがなくてりうやガンプのような生き方は難しそうです。


 最後に、私の診療場面で一期一会の心が取り入れられいるかといいますと、五分診療になりがちな日常医療の中では不十分です。ただ、いつもという訳にはいきませんが患者さんや家族の方にその心で望まなければならない機会を見逃さない、そんな医師になりたいと思うこの頃です。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto

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