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アルコール関連障害障害 ―第17回―

 抗酒剤

 前回は、自助グループについて話しをしましたが、今回は抗酒剤(薬)についてお話をしたいと思います。今回は少し学問的な話しになるかもしれません。

 抗酒剤について世間で誤解されて、嫌酒薬のように思われていることがあります。この薬を飲んだからアルコールが嫌いになる訳でありません。この点を家族が間違って理解し、薬を飲ませたがいっこうに嫌いにならないではないかと抗議を受けることが稀にはあります。この薬の本態は、アルコールの分解酵素であるアルデヒド脱水素酵素を主に阻害し、少量のアルコールを飲んでも大量の飲酒と同様な状況に導くことにあります。つまり、一般にアルコールは、まず二日酔いの原因になるアセトアルデヒドに分解され、次いで酢酸、最終的に水と炭酸ガスになる代謝過程をたどります。


しかし、抗酒剤を服用して飲酒すると、アセトアルデヒドが分解されずに血液中に増大し、顔が紅潮したり、悪心、嘔吐、激しい頭痛、極度の心悸亢進、呼吸困難、血圧低下などの二日酔いのひどい状態になったりするわけです。このような嫌悪体験を利用し、「こんなつらい思いをするくらいなら二度と飲まないようにしよう」など飲酒に対する心理的抑止効果をこの薬は狙ったもので、病的飲酒欲求を軽減し、再飲酒に走らないようにするものです。再飲酒を防ぐための「転ばぬ先の杖」なのです。

 では、抗酒薬にはどんな種類があるのでしょうか。1つは、無味無臭の水剤であるシアナマイドという抗酒剤が、2つ目が粉末のノックビンという薬です。両薬剤の違いは、単に水薬と粉末の薬という違いだけではありません。シアナマイドは、薬理効果が12時間前後と短く、重篤な副作用も少ない点が特徴で、まず最初に処方される場合が多くなります。それに対して、ノックビンは重篤な副作用が出現しやすいため、シアナマイドに副作用がある場合や、長時間の薬理効果を求める場合に限って使用されるのが現状です。

 さて、気になるのが副作用です。よく利用されるシアナマイドについてですが、無症候性の白血球増多が高率で認められます。自覚症状はないのですが、白血球の数が正常の範囲内を超えるので他の炎症性の病気と見間違えられることがあるくらいです。ですから、反対に白血球増多を指標にシアナマイドを服用しているかどうかを推定できるほどです。一般に、増多を認めた場合に定期的な検査をしながら投薬の継続を行う必要があります。次に多く出現し投薬中止にいたる副作用は、発疹で、約10人に1人の割合で認めます。出現率が高いので、大抵は医師から出現の可能性を告げられるのが通例です。発疹が重篤であれば単に服薬中止の対応だけでは不十分な場合もあります。Stevens-Johnson症候群,Lyell症候群,落屑性紅斑なども報告されていますので専門医に診てもらうことも大切です。ただ、25年以上アルコール依存症の治療に関わってきましたが、重篤な皮膚疾患にいたった症例に遭遇していませんのでこのような副作用の発現がまれなものと考えます。その他に、稀に頭痛、不眠、脱毛、悪心・嘔吐、肝機能障害を認めることがあります。副作用が出現した場合、投薬は中止して、次に述べるノックビン投与に切り換えるかを十分に医師と話し合う必要があります。シアナマイド服薬は原因療法でないからです。

 では、ノックビン投与による副作用はどうなのでしょうか。この薬の副作用としては、抑うつ,情動不安定,幻覚,錯乱等の精神神経症状が知られ、ノックビン精神病と言われています。私も、2例の経験があります。その他に、肝機能障害、発疹、長期投与で多発性神経炎・末梢神経炎・視神経炎が報告されています。

 このように、いろいろな副作用をお知らせすると怖くなって飲む気になりませんね。しかし、断酒の3本柱のひとつに掲げられているのは、アルコール依存症者には、抗酒剤による副作用に比べてアルコールによる副作用の方がずっと大きいからなのです。大抵は、飲める体を保持しておきたいと思えるほど、いろいろな理由を探し出して抗酒剤から遠ざかるのが普通です。医師と相談しながら抗酒剤を最低、1年間は飲んでほしいものです。

 次回は、「治療(補講)-生物学的・心理学的・社会学的存在としのア症に対する治療-」を述べたいと思います。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto