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アルコール関連障害障害 ―第14回―

 内観療法について

 前回、アルコール依存症の治療は、単にお酒を飲まないようになれば治療が終結するのではなく、考え方や生き方を変える必要があることを述べ、その一つとして内観療法があることまで述べました。今回は、アルコール依存症の治療として取り入れられている内観療法についてページを割いてみましょう。

 人は自分のことを良く知っていると普段は思っている。果たして、本当でしょうか。私が勤務する病院の診察室の前に、今日の診察医の自分の写真が掲げてあります。見ると、自分のイメージと違った中年の老けた別人をそこに見つけて愕然とします。それでも自分の容姿は鏡や写真を見ればわかりますが、自分の心となると簡単にはいきません。心の鏡が必要となります。内観(療法)はその役割を果たせるもので、自分を知る方法の一つです。自分と出会い、自分を変えていくことになります。

 この内観(療法)は、浄土真宗一派に伝わる修行法「身調べ」をもとに吉本伊信が万人にできるように改良し、昭和16年頃に現在に近い形に改良された方法で、短期間で効果を発揮できる短期精神療法として注目を浴びています。対象疾患は、アルコール依存症などの依存性疾患や、神経症、心身症等に効果があることが実証されています。

 方法は、身近な人物、一般的に「母に対する自分」から始めて、内観三項目である「お世話になったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を、小学校低学年から3年刻みで現在まで調べる。母が終わると対象者を父や夫、妻、祖父、祖母、上司へと広げていく簡単な方法で、7日間行なうのが「集中内観」です。この集中内観の効果は劇的ですが、時間がたつとその効果が薄れて行くために、日常的に行う「分散内観」と組み合わされたりしています。

 実際にアルコール依存症の治療にこの方法が加えられた場合に、従来の集団精神療法などのアルコール依存症社会復帰プログラムでは、断酒率は2~3割止まりであるのに対し、指宿竹元病院の報告では5割という驚異的報告もあります。

 私の勤務する富山市民病院では、集中内観の連続性の効果を低下させないよう工夫した上で、週一回、朝9時から午後5暗まで行なう「富山市民病院方式」を導入しています。集中内観のような劇的な変化は望めませんが、体験した人の6割の方が、退院後の断酒継続や生き方に内観の効果を認めています。

 内観効果として、体験者のM氏の言葉を借りれば、「薄っぺらな姿でなく本当の姿を見つめることができ、物事への視点が180度変わった。断酒の必要性を否定しなくてすむようになった。今まで、自分を正当化するためにたくさんの鎧をつけていたが、自分が身軽になった」と感想を述べています。

 しかし、このような効果を認める方法ですが、効果のメカニズムは十分に解明されているとは言えず、他者への愛の再発見と健康な罪悪感の目覚めが、大脳辺縁系に影響を与えると考えられています。その解明の為にも、国際会議や国際学会も開催されています。この療法は日本に限らず、ドイツを中心としたヨーロッパやアメリカ、そして中国や韓国でも次第に広がりつつあります。
                               
 みなさんに、依存症の有無に関わらず自己を知る方法として一度は体験をすることをお勧めしたいと思います。次の第15回は、断酒の3本柱を紹介しましょう。