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アルコール関連障害障害 ―第18回―

 治療(補講)-生物学的・心理学的・社会学的存在としのアルコール依存症-

 前回は、抗酒剤について話しをしましたが、今回は治療についてお話をしたいと思います。今回は前回と同様に少し難しい話しになるかもしれませんが、アルコール医療に対して私の考えを話してみたいと思います。

 最近は、精神医学の世界で、病気に対する生物学的・心理学的・社会学的な取り組みの重要性が論議されることが増えていますが、アルコール依存症(以下、ア症)への取り組みが良いモデルとなるように思います。 このメルマガで満載した、第5回の「飲酒問題とアルコール関連問題」でも話しましたように、アルコールという薬物は生物学的・心理学的・社会学なレベルに作用し、時には問題を起こします。ですから、その治療は「群盲、象をなでる」の諺のような視覚障害の方が象の一部をなぜて象と理解したように、この諺は視覚障害者に対して差別用語であるかは議論しませんが、例えば心理学的な方面からの治療的関わりが強調されるという状況では片手落ちになることもあり、問題点を多面的に考えて対処をしなければならないと考えるのです。しかし、現在の日本で、ア症への取り組みを見渡しますと、特に生物学的問題、これから述べる点についての治療的配慮が不十分でないかと思うのです。

 私が、過去にア症の治療にたずさわっていまして、離脱期を脱したにもかかわらず、意識レベルの低下としか形容できないような言動等を認める多くの方に遭遇しました。そのような方には、否認のメカニズムやアルコールの病理性を問題にしても歯が立たないのです。アルコールを止めて3ヶ月ぐらいして、頭にかかっていた雲が薄れ、青空が見えてくるように自分の置かれた状況や病気に対する認識、対応がわかるようになる方も珍しくありません。入院中の出来事をほとんど覚えていないことも時にあるのです。

 この状態像と関連して、ア症性肝性脳症の存在が浮かびあがります。この肝性脳症の方は軽度の意識障害からさまざな程度の意識障害を認めます。原因として血漿アミノ酸の不均衡、目安としてFischer比(以下F比)の低下が指摘されています。それであれば、ア症の方の意識レベルの低下は、F比の低下と関係していることが証明されれば、肝性脳症に認められるメカニズムが一部影響していることが予想されます。F比の低下は血漿アミノ酸の不均衡をもたらし、それは脳内の伝達物質にも影響し、ア症の治療の際に認める認知の歪みの一つ、ごく軽度の意識レベルの低下に関与しているのではないかと考えました。それで、以下のような調査をしたことがあります。

 調査は,ア症者52例について行いました。まず、どの程度アミノ酸の代謝異常が認められるかを調べたところ,F比2.50以下が52例中30例に認められ、ア症者の血漿アミノ酸の不均衡が多いことが証明されたことになります。ア症者のこのうち9例にアミノ酸食(肝不全用経口栄養剤アミノレバンEN)を3ヶ月間投与したところ,F比や肝機能検査値に有意に改善がみられました。同時に,投与前と3ヶ月後に精神機能を示すNumber Connection Test を実施したところ、有意に改善を認める結果でした。従って,低F比を呈するア症患者に血祭アミノ酸を補正するアミノレバンENを投与することは,意識レベルの低下を改善し,ア症に対して好影響を及ぼすことが期待されると結論ずけて報告しました。その後、札幌医科大学の斉藤教授によるさらに詳しい研究により認められた結果です。

 この事実は、ア症者の治療に対しては、生物学的・心理学的・社会学的な取り組みが必要なことを示しているものと思われます。日本の精神科医療はアルコール医療に比較して生物学的な治療が主流となっていますが、やはりバランスの良い治療が大事と思うこの頃です。

 次回は、アルコール医療をめぐる偏見について取り上げてみたいと思います。

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