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アルコール関連障害障害 ―第11回―

 依存症とシステム療法

 今回は、「システム療法」という聞き慣れない用語が登場してきました。読んでいただくと、言葉のイメージと違うことに気付かれると思うので、飛ばさずに目を通していただくとうれしいですね。

 さて、アルコール依存症の治療は、他の体の病気と異なり、当の本人が病院に治療を求めてなかなか来ないのが特徴です。来院しても内科などがほとんどで、自ら精神科を訪れる人は滅多にありません。前回のアルコール治療劇でも触れましたね。大抵は、家族がアルコール依存症が起こすさまざまな問題(アルコール関連問題)に振り回され、困り果てた末に、勇気を振るって病院や保健所などに相談のかたちでたどり着くのが一般的です。そんな時に、システムズ・アプローチが有効です。

 アルコール依存症のAさんがいます。仕事に行かずに、日中からお酒を飲んで、家族に暴言や暴力を認めます。普通は次のように考えて対応します。飲酒の原因は、本人の意思の弱さとか、職場の環境や妻の対応に問題があるためなどと、問題を単純・還元化して因果関係を理解し、飲酒問題への対処方法を行うのが一般的です。

しかし、原因はそんなに単純なものではなく複雑であるのが普通です。例えば、妻の不適切な関わり方と思えたのは、飲酒問題による妻の混乱状態の結果という事もありますし、母親が陰で仕事に疲れて帰宅したのだからお酒ぐらいと嫁に隠れてお酒を与えているので、妻は夫に対して攻撃的になっているのかもしれません。このように、因果関係と言っても、それは直線的というより円環的で、原因が結果、結果が原因という場合が多いのです。

 このような複雑な問題を合理的に解決する方法論として登場したのが「システムズ・アプローチ」です。この方法論は、ベルタランフィが提唱した一般システム理論に基づいています。ここで言われるシステムは、我々が理解している意味と少し違い、広い意味で使われ、時計じかけやサーモスタットのようなハード的なものから、細胞、植物、動物、人間、国家、はては宇宙までがシステムとされ、一般システム理論の対象となります。

この理論の全部を示すことはできませんが、幾つかの公式があります。一端を示すと、どのシステムも何もしないと混沌とした非分化な状態となり解体してしまう。家族に当てはめると、家族は外から情報や食料・衣料品などを入れ、食品は加工され食事と提供される。一方、それに対してお金を支払うなど物質エネルギーを交換しあうという開放システムがあって家族が成立する。ところが、閉鎖システムで、家にお金を入れられないと餓死するし、アルコ-ル依存症で入院になったが子供が心配するからと事実を伝えないなど情報を操作する家族において病気が良くならないで家族崩壊にいたるなどは珍しくありません。

 さて、アルコール依存症という個人の精神病理または行動障害は、システム論的に応用した場合、Aさんを取り巻く家族や職場、地域というシステムの歪みの反映として捕らえることができます。一般的にシステムとして家族を対象として扱う場合が多く、システムの歪みなどとはわかりにくいので、「家族病」称して、Aさんを含めた家族を治療するのです。その結果、夫婦間のコミュニケーション問題や、父親がアルコ-ル依存症でAさんに母親が夫のような過大な役割を担わせている点や、Aさんの飲酒は妻と母親の仲の悪さを防ぎ家族の再結集に役割を果たしている事が見えてくるかもしれません。

つまり「木を見て森を見る」ことがシステムズ・アプローチ-の特徴で、Aさんの家族システムの構造的ないし機能的な不均衡を見つけ、バランスの崩れを修正する事により解決をしていく。そうすることにより、家族構成員の一人のAさんのアルコール依存症という病気も良くなるのです。さらにこの方法の長所は、システムの歪みと捕らえる事により悪者を作る必要がなく、家族の協力が得やすい点があるし、悪者扱いされるAさんの賛同を得やすいのです。アルコール依存症の本人が治療に来られなくても、治療が成立するのが魅力的でもあるのです。

実際に1度もアルコール依存症の本人が病院に来られなくても、家族を治療することによって当の本人の病気が良くなった例もあります。本当なんです。

 一部でしたが、システムズ・アプローチに触れていただけたでしょうか。次の第12回は、システム理論に基づいた具体例を挙げて考えてみましょう。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto

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